ラストバージン
テーブル同士の間隔がしっかりと空いているから、他のお客さん達の話の内容はわからないけれど……。楽しそうな笑い声や雰囲気はヒシヒシと伝わって来て、私達のテーブルだけこの空間から切り離されたようにどんよりとしているのが見て取れた。


沈黙に堪らない気持ちになって俯きたくなり、それでも菜摘の反応を僅かでも見落とさないように視線を逸らさなかった。


軽蔑されてしまうかもしれないというのは、もうずっと予想していた事。
だからこそ、今まで彼女には話せなかったのだから……。


もしあの時に恭子が電話をくれなかったら、きっと彼女に対しても同じように打ち明ける事は出来なかっただろう。
逆に、あの時の私の傍にいてくれたのが菜摘だったら、私は彼女に縋り付いていたに違いない。


聞いて欲しくて、縋り付きたくて。
知られたくなくて、言えなくて。


そんな相反する思いに挟まれる中、このジレンマが正直な気持ちだったのだと気付く。


「不倫、か……」


様々な事に思考を巡らせていると、不意にその言葉の意味を噛み締めるように小さく零された。
直後、これから菜摘の気持ちを告げられるのだと感じて、思わず姿勢を正した背中を嫌な汗が滑り落ちた。

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