ラストバージン
マスターは、「二十分程で戻ります」と言い残して出て行った。
財布の事を思い出す前に二杯目のブレンドを用意してくれようとしていたマスターは、きっちりそれを私に出してから出掛けて行って、そんな事をしていた彼に私の方が焦ってしまった。
もちろんブレンドはありがたく頂くものの、忘れ物が財布と聞いてしまっては慌てずにはいられない。
元々のんびりとした性格のようだけれど、マスターの財布が無事なのか心配で堪らなかった。
とは言え、私が焦っても仕方ないのは明白。
熱々のブレンドで何とか心を落ち着かせ、静かな店内を改めて見渡した。
レコードが流れていないせいで、余計に静寂な空間。
一人きりだという事もあいあまって、私は簡単に寂しさを感じてしまう。
それはきっと、ここには榛名さんとの思い出が多過ぎるから。
出会ったのはもちろん、初めて話したのも、自分の信念を告げたのもこの場所。
時間が合えば仕事帰りに待ち合わせ、二人で遊びに行った帰りにも立ち寄った。
思い返すまでもなく次々と溢れ出す記憶は、私の心を益々悲しみ塗れにさせる。
思わず涙が込み上げて来た直後、背後で鐘の音がカランカランと鳴って体がビクリと強張った。
財布の事を思い出す前に二杯目のブレンドを用意してくれようとしていたマスターは、きっちりそれを私に出してから出掛けて行って、そんな事をしていた彼に私の方が焦ってしまった。
もちろんブレンドはありがたく頂くものの、忘れ物が財布と聞いてしまっては慌てずにはいられない。
元々のんびりとした性格のようだけれど、マスターの財布が無事なのか心配で堪らなかった。
とは言え、私が焦っても仕方ないのは明白。
熱々のブレンドで何とか心を落ち着かせ、静かな店内を改めて見渡した。
レコードが流れていないせいで、余計に静寂な空間。
一人きりだという事もあいあまって、私は簡単に寂しさを感じてしまう。
それはきっと、ここには榛名さんとの思い出が多過ぎるから。
出会ったのはもちろん、初めて話したのも、自分の信念を告げたのもこの場所。
時間が合えば仕事帰りに待ち合わせ、二人で遊びに行った帰りにも立ち寄った。
思い返すまでもなく次々と溢れ出す記憶は、私の心を益々悲しみ塗れにさせる。
思わず涙が込み上げて来た直後、背後で鐘の音がカランカランと鳴って体がビクリと強張った。