ラストバージン
「僕がどれだけショックだったかわかる?」


何の事だろうと考えて、すぐに自分の過去の事を言われているのだと理解する。
謝るのが正しいのか、私にはわからない。


だけど……。

「電話しても繋がらないし、メッセージは既読にならないし、メールはエラーで戻ってくるし……。こういう拒絶の仕方って、結構つらいんだよ?」

私の解釈は間違っていたようで、榛名さんが窘めたのは連絡を途絶えさせた事だった。


「どうしてそんな事したの?」


困ったように微笑む彼は、きっと私の行動の意図をわかっているのだろう。
ただ、私の口からちゃんと聞き出すつもりでいるのか、真っ直ぐな瞳は静かに答えを促していた。


言葉を紡ぐ準備は、まだ出来ていない。
ましてや、次に出て来るのが言い訳になるというのがわかっているから、口を開く事を躊躇ってしまう。


「……僕に軽蔑されるとでも思った?」

「あ……」

「僕が結木さんの事を嫌いになるとでも思った?」


もう逃げられない事を確信しながらも、私を見つめる悩ましげな笑みから僅かに視線を逸らす。
そして、意を決して小さく頷いた。


「……うん。悪いけど、それは否定しないよ」


直後、肯定を孕んだ言葉が、鋭い刃となって頭上から降って来た。

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