黒愛−kuroai−
彼を置いて歩き出す。
前へ、前へ、自分だけ。
足を止めていた彼が追い付き、
隣に並ぶ。
肩を強く掴まれた。
「俺の話し、聞けよ!
何、スルーしてんだよ!」
「あっ!オリオン座だ!
先輩、あそこ、見て見て!」
「愛美っ!!」
自宅前に着いた。
険しい顔の彼に抱き着く。
シトラスの香りを胸一杯吸い込み、満足していた。
その時、玄関ドアが開き、母が現れた。
抱き合う私達を見て、呆れ顔。
「あんたたち、家の前でイチャつくのは止めなさい。
ご近所の目があるでしょ?」
「お母さんただいま!
夕食、食べてきちゃった」
「そういう時は電話一本入れなさい。一応心配するから」
心配していた割に、パジャマにガウン姿で、お風呂上がりの濡れた髪。
寝る準備は万端だ。
柊也先輩が、無言で母に頭を下げる。
母とは初対面。
彼がうちに入ったことはない。
「来て」と言わないし、
「行きたい」とも言われない。