黒愛−kuroai−
廊下を進む。
診察室の隣は、処置室と書かれた部屋だった。
中にいるのは、看護師と妊婦が一人ずつ。
開け放したドアに“定期健診の手順”と書いたポスターが貼られていた。
尿検査→体重測定→血圧測定→腹囲測定→診察…………
あの妊婦は今、看護師に血圧を測って貰っているから、この後は腹囲測定か…
何気なく、そんな事を思っていた。
処置室を通り過ぎようとして、足を止めた。
入口横の台に、青いプラスチックのカゴが置いてある。
そこには“母子手帳はコチラに”と書いてあり、
血圧測定中の妊娠の物と思われる、母子手帳が一冊入っていた。
その手帳に釘付けになる。
表紙には、赤ちゃんを抱く母親のイラストが描かれていた。
妊娠しないと貰えない手帳。
これが…妊婦の証…
処置室前を通り過ぎる振りして、廊下に潜み、中の気配を伺った。
定期健診の手順ポスターには、血圧測定の次は“腹囲測定”と書いてあった。
お腹を出すと言うことは…
予想通り、妊婦は看護師に連れられ、処置室の隅のカーテンへ。
2人がカーテンに隠れてしまうと、処置室はまるで無人。
周囲を警戒しつつ素早く動き、カゴの中の母子手帳を盗む。
それを鞄に入れ、何食わぬ顔して会計を済ませ、そのまま病院を後にした。
帰り道、一人ほくそ笑む。
母子手帳…妊婦の証拠を手に入れた…
これで私の妊娠は、疑いようがない。
さあ、柊也先輩に会いに行かなくちゃネ。