黒愛−kuroai−
「止めろ」と言われ、引きはがされる。
見下ろしてくる彼の目は、真剣その物。
そうだよね、まず素敵な報告を聞きたいよね。
抱き合い喜ぶのは、後にしなくちゃね。
満面の笑顔で言った。
「柊也先輩!私、妊娠しましたよ!喜んで下さい!」
「…う…そ…だ…」
「嘘じゃありません。
ほら、これが証拠です」
昨日盗んだ母子手帳を見せる。
表紙の下に、氏名記入欄があり、しっかり私の名前が書いてある。
元は本当の持ち主の名前が書いてあったが、こんなのは簡単に変えられる。
表紙をPCに取り込み、加工して印刷し、本体に貼付ければ…
“私の母子手帳”の完成だ。
青ざめる彼の前で母子手帳を開く。
“妊娠の経過”と書かれたページには、腹部エコー写真が貼ってあった。
白黒の不思議な写真。
中央に小さな黒い楕円があり、その中に豆粒ほどの何かが写っていた。
赤ペンで丸が付いていたから、これは胎児なのだろう。
彼の前で得意げに説明する。
「この小さな豆粒が、私と柊也先輩の赤ちゃんです。
小さな小さな命、嬉しいですね!」