黒愛−kuroai−
 


必死の彼の前に座り、目線の高さを合わせる。


ニッコリ笑いかけると、彼は何かを期待する。


下ろしてあげる………………………………………………なんて言う筈、ないジャナイ…




スッと笑みを消し、焦げ茶色のサラサラな髪を鷲掴む。


髪を引っ張り、顔を至近距離に近付け、最終通告を言い放つ。




「無理でも、パパになって貰う。
嫌でも、結婚して貰う。

それを拒否するなら……

アナタを殺して、私も死ぬカラ」





絶句する唇。

絶望に彩られる瞳。



クスクス笑い、形の良い唇にキスをした。



何もかも思い通りで、バラ色の人生はすぐそこだった。



幸せで…………………………………何か物足りない…



モノタリナイ…?



完全な幸せを掴んだ筈なのに、自分の中から聞こえた声に、喜びが中断した。



今までも、幸せだと思う度に、何度か物足りなさを感じて来た。



ピンクのカーテンの中の、写真を思い出す。



一番のお気に入りは、合成結婚写真ではなく、テニス写真。


獣のような鋭い瞳で、ボールを追い掛ける彼の姿。



あんな目で、私を追い求めて欲しいと感じていた。

そこに究極の愛を見ていた。



それなのに、今の彼の瞳は、力がない。

“結婚”と言う、理想の愛を手に入れても、願いは叶わない…?



“理想の愛”と“究極の愛”は別物なのか…?




< 246 / 276 >

この作品をシェア

pagetop