黒愛−kuroai−
必死の彼の前に座り、目線の高さを合わせる。
ニッコリ笑いかけると、彼は何かを期待する。
下ろしてあげる………………………………………………なんて言う筈、ないジャナイ…
スッと笑みを消し、焦げ茶色のサラサラな髪を鷲掴む。
髪を引っ張り、顔を至近距離に近付け、最終通告を言い放つ。
「無理でも、パパになって貰う。
嫌でも、結婚して貰う。
それを拒否するなら……
アナタを殺して、私も死ぬカラ」
絶句する唇。
絶望に彩られる瞳。
クスクス笑い、形の良い唇にキスをした。
何もかも思い通りで、バラ色の人生はすぐそこだった。
幸せで…………………………………何か物足りない…
モノタリナイ…?
完全な幸せを掴んだ筈なのに、自分の中から聞こえた声に、喜びが中断した。
今までも、幸せだと思う度に、何度か物足りなさを感じて来た。
ピンクのカーテンの中の、写真を思い出す。
一番のお気に入りは、合成結婚写真ではなく、テニス写真。
獣のような鋭い瞳で、ボールを追い掛ける彼の姿。
あんな目で、私を追い求めて欲しいと感じていた。
そこに究極の愛を見ていた。
それなのに、今の彼の瞳は、力がない。
“結婚”と言う、理想の愛を手に入れても、願いは叶わない…?
“理想の愛”と“究極の愛”は別物なのか…?