黒愛−kuroai−
今度は彼は頷かない。
心中しようと誘ったのに、首を小さく横に振る。
それを無視し、刃先を薄く滑らせた。
短い悲鳴と同時に、首筋に赤い線が付いた。
震える彼が、必死に声を出す。
「ま…待て… 待ってくれ…」
「ダメです。
さあ早く、私の首を絞めて下さい。
私も今度は、強く切り付けますから」
「ま、待て…待てって……
そ、そうだ…
ば、場所…し、し、心中するなら、場所を…」
「場所?」
何か言いたいらしいが、良く分からない。
首筋からカッターを離してあげると、やっと、どもらず話し始めた。
「どうせなら、有終の美を飾りたい。
こんなつまんない場所じゃなく、もっと心中に相応しい場所があると思うんだ。
だから今は待って。
俺に場所を選ばせて。
それくらい、いいだろ?
な?な?」