黒愛−kuroai−
それに付いて、少し考える。
言われてみると確かに、生物化学室は心中に相応しい場所と思えない。
人体模型やホルマリン漬けの標本はつまらないし、安全過ぎてドキドキ出来ない。
考えている最中に、2時間目の授業終了の鐘が聞こえた。
廊下の向こうに、ザワザワと人の気配がし、急に煩くなる。
カッターの刃を仕舞い、ポケットに入れた。
ニッコリ笑い、彼に言う。
「そうですね。
こんな場所じゃ、ダメですね。
つまらないし、煩いし、心中を楽しめません」
ホッとした顔の彼。
大きく息を吐き出し、頭を垂れた。
太ももの出血は、止まっているみたい。
顔をしかめて立ち上がり、足を引きずり、出口に向かう。
その背中に声を掛けた。
「心中場所…先輩が決めると、言いましたよね?
1週間の期限をあげます。
連絡待っていますネ」
「あ…ああ…」
「分かっていると思いますが、私から逃げられませんよ。
逃げても無駄です。
地の果てまで追い掛けますから…ネ…」
彼はビクリと肩を震わせ、振り向かずに出て行った。
誰もいない教室で、私は一人、クスクス笑い続ける。
床に転がるミツオ君は、壊れた目をドアに向け、彼の暗い行方をジッと見詰めていた。