黒愛−kuroai−
薄暗い待合室を抜け、外に出た。
駅前は“タクシー乗り場”と書かれた錆びた看板があるが、タクシーは一台も停車していない。
人もいない。
無人の通りに、シャッターを下ろした古い商店が続くだけ。
駅を出て、彼に手を引かれて歩く。
閉店した商店が途切れ、民家がポツポツ点在する道に入った。
風向きが北寄りに変わると、潮の匂いを感じた。
「柊也先輩、海の匂いがします。
心中場所は、海ですか?」
彼は薄く笑い、頷く。
「そうだよ。
ほら、あそこに灯台が見えるだろ?
あそこら辺、切り立つ崖なんだ。そこまで行こう」
彼の指差す方向を見る。
葉を落とした木々が茂る林の向こうに、灯台の白い頭だけが見えた。
海はまだ見えない。
ここから500mほど下って行かないと、灯台の立つ岬に辿り着けない。