幻物語
都の街中には人が溢れ返っていた。


紫さんは私がここで生活するにあたって必要な物があるだろうからと気にかけて連れ出してくれた。


すれ違う女の人が紫さんをちら見しているのが伺える。



綺麗な人だもんな…

普段の自分じゃ、こんな綺麗な人と歩くなんて有り得ないことだった。


紫さんは私みたいなのと一緒に歩いて恥ずかしくないのかな?


「どうしたの?気分でも悪い?」


「いいえ…その…何だか慣れなくて…」

突然、紫さんが一つの出店の前で立ち止まった。


「紫…さん…?」


手にしているのは淡色の飾りがついた簪だった。


誰かにお土産に買っていくのかな?


「これ一つ下さい」


紫さんの大事な人にプレゼントするとか――


「日和」


私に向かってその簪を差し出す。
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