幻物語
「いいですよ、そんな…紫さんの大切な人にでもあげて下さい。」


紫さんは目を丸くした。


「これから手助けをしてくれる日和も大切な存在であることに変わりはない。だから受け取ってはくれぬか?」


「それはその…本当に私でお役に立てるかなんて未だ分かりませんし…」


「私の言うことが信じられぬか?」


少し寂しそうに紫さんは目を伏せてしまう。


「い、いえ…そんなことはありません!信じてます!」


「それならば、…答えは出ているな」



簪をそっと私の手中に握らせる。



「折角ですが私、髪飾りとか…」


普段使わないどころかもう何年も付けたこと無い。


「日和、ちょっと失礼するよ?」


紫さんが瞬時に私の髪を綺麗にまとめあげ簪を挿す。


「よく似合っている。」


そして目を細めて笑った。


私はまた鼓動が高鳴るのを感じた。
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