幻物語
見た目だけじゃなく、心も綺麗な人なんだろうな…


そう思った。


まだ夢の中にいるような気分だった。


だけど、これは夢のような現実。


「こんなことに巻き込んでしまって申し訳ないと思っている。本当は今すぐにでも帰りたいであろう?」


頷くことが出来なかった。


肯定をしたところで元の世界に帰して貰える訳じゃないと分かっていたから。


「日和の生きている未来の世界はどんなものだ?」


束ねられた紫さんの髪が揺れる。


「戦は続いているのか?」


「いいえ…争いごとはありません…」


退屈な毎日だったけどそれが当たり前な幸せ。


「そうか…」


紫さんは虚ろな目でどこか遠くを見ていた。


「見ず知らずのそなたを呼び寄せることになった時、私は正直嬉しかった」


「嬉しかった…?」
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