この愛に抱かれて
響子はそのことを牧村道子から聞いたことがあった。


両親の思い出の地


響子は何を訪ねるわけでもなく、ただ街を歩いた。


風景を眺めてはいたが、彼女の目には何も映っていなかった。



やがて、海岸線へと出た。



遠くの空に雲が棚引いていた。


潮風は容赦なく吹き抜け、地面の草花は凍えるように揺れていた。


あたりは次第に夕闇に包まれていった。


不意な突風にあおられて響子は前のめりに倒れた。


地面に両手をついた拍子に、首にかけていた細い銀色のネックレスがスルスルと垂れ下がる。


ネックレスには両親の形見の指輪が二つ通してあった。


ゆらゆらと揺れる指輪をじっと見つめながら、響子はそのまま草むらの上にしゃがみこんだ。
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