さみしがりやのホットミルク
「……家の、話をした後。佳柄の泣き顔を見て、ああ、もう一緒にいられないんだなって思ったら、どうしようもなくなったんだ」



どうしようも、なくなって。

……そしてどうしようもなく、彼女を汚したくなった。



「……自分はやっぱり最低な人間なんだなって、思ったよ。ぐちゃぐちゃになってる佳柄を見て、たしかに俺の中で、何かが満たされた気がしたから」



今思えばそれは、逆に何もかもが、からっぽになっていっていたのかもしれないけれど。



「………」



両手をきつく握りしめて、自嘲的な笑みを浮かべる俺を、光がじっと見つめる。

そして不意に、深く息を吐いた。



「──馬鹿だなあ、晴臣。……かえサンの涙の理由は、もっと別のところに、あったかもしれないだろ」

「……え?」



小さくつぶやかれた言葉たちをうまく聞き取れなくて、俺は聞き返すけど。

光は「なんでもない」と、首を横に振った。



「……で。それから、実家の方はどうすんの?まさか、このままずっと家出少年続けるわけにもいかないだろ」

「それは、……まだ考え中」

「……まあ、ウチには好きなだけいてもいいけど……でもちゃんと、自分がどーしたいのか考えろよ?」

「ああ……」



──きっとそのうち、父さん……組長の指示で、俺を連れ戻そうとする奴らが現れるだろう。

けど、それまでは。せめてゆっくり、自分の今後のことを考えていたい。


──……そう、思っていた。
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