さみしがりやのホットミルク
「──お久しぶりですね、坊っちゃん。1週間ぶりですか?」



部屋に光を残し、杉山さんに案内されて行った、応接室。

その革張りのソファーに腰かけて、男は笑った。



「……1週間ぶりくらいなら、久しぶりとも言えないだろ」

「そうですかね。今までほぼ毎日、顔を見てきましたもんで」



同じように目の前のソファーに腰をおろしながらの俺の言葉に、伊月は笑みを絶やさないまま飄々と答える。

いつもと変わらない、高級そうなスーツを隙なく着こなし、優雅な動作で出された紅茶を飲むその姿は、とてもじゃないがヤクザの人間には見えない。

俺は眉を寄せて、また口を開いた。



「……ただクソ高い紅茶飲みに来ただけじゃないだろ。何の用でここに来た」

「そりゃまあ、わかってるでしょうけど、坊っちゃんとお話しに」

「………」



どうしてここにいるとわかったのかとか、聞きたいことは、たしかにこちらにもあるけれど。



「断る。帰れ」

「つれないですねぇ。昔はあんなにかわいかったのに」

「……おまえの前でかわいかった覚えなんてないんだけど」

「かわいかったですよー。いづきーいづきーって、ちょこまか俺の後ろ付いてきて」

「んなもん覚えてねぇよ……」



ああもう、なんだかこれじゃいつもの伊月のペースだ。

俺はひとつふっと息を吐いて、改めて鋭く目の前の男を見据える。
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