さみしがりやのホットミルク
「かわいいですよねぇ、あの子。純朴で、スレてなさそうで」

「て、めぇ……」

「坊っちゃんは、もちろんわかってらっしゃいますよね? ……あなたが生まれ育った家は、若い女ひとりの人生くらい、簡単に壊してしまえるほどの力があることを」

「……ッ、」



冷ややかに微笑む伊月に、俺は何かを堪えるように、奥歯を噛みしめて。

ふっと、胸ぐらを掴む手から力を抜いた。



「……わかった。家に、帰る」



いまいましげに吐き捨てた、その言葉。

伊月が乱れたネクタイをしめ直しながら、口角を上げる。



「さすが坊っちゃん。賢明な判断です」

「……もし佳柄に何かあったら、ただじゃおかないからな」

「ああ、それはこわいですね」



まったくそう思ってなさそうな声音で言って、伊月はソファーから立ち上がった。



「………」



俺はまた、ぎりりと両手をきつく握りしめて。

そうしてようやく、同じように、重い腰をあげた。
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