さみしがりやのホットミルク
少し上がってしまった息を整えながら、俺はその子へと近付く。



「……なあ、どうした?」

「ふえっ」



俺に突然声を掛けられてよほど驚いたのか、女の子はびくりと肩を震わせて顔をあげた。

その拍子に、ふたつしばりの色素の薄い茶色い髪が、ぴょこんと揺れる。


自分と同じくらいか、年下だろうか。涙でぐちゃぐちゃになった顔が、少しおびえたようにこちらに向けられていて。

目線を合わせるように自分もしゃがみながら、また口を開いた。



「どうした? どっかいたいのか? それとも、親とはぐれたのか?」

「う……ふぇ、ひっく、」

「泣いてちゃ、わかんねぇって」



俺はポケットから伊月にいつも持たされているハンカチを取り出すと、その子に差し出す。

女の子は一瞬固まっていたが、「ありがとう」と小さく言って、ハンカチを受け取った。



「……で、なんかあったのか?」



その子がぐしぐしと涙を拭いて、俺が再三訊ねたとき、ようやく追いついてきた伊月が後ろで立ち止まる。

あのね、と、女の子は未だひくひくしゃくり上げながら話し出した。



「おかあさんのところに、行こうとおもったの。おひるねしてたら、こわいおばけがおかあさんをびっくりさせるゆめをみたから……だけど、ここからどうやって行くのか、わかんないの……」

「……おかあさんのところ?」



俺が聞き返すと、その子はぎゅうっとうさぎを抱きしめながら鼻をすする。
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