さみしがりやのホットミルク
持たせたままだったハンカチを奪って、頬に残る涙の筋を拭いてやりながら、俺は話し掛ける。



「こんどからは、ひとりで来ちゃダメだぞ。あんたが思ってるより、よのなかブッソーだからな」

「……ひとりじゃないよ、うさたろうもいっしょだよ」

「じゃあ、ひとりだけと、うさたろうとふたりはダメ」



ハンカチをしまってから、指切り、と小指を目の前に差し出すと、素直に自分の小指を絡めてきた。

そこで初めて、女の子は、ふにゃりと笑ってみせる。



「……ありがとう、おにいちゃん」

「…………べつに、」



その笑顔を見たら、一瞬、心臓がどきりとして。

なんだか急に気恥ずかしくなってしまったから、プイと顔を背けた。



「お待たせしました。出発しますよ」



そこでちょうど、車の外で電話をしていた伊月が運転席に乗り込んでくる。

おおかた、俺の父親にこのことを連絡していたのだろう。待ち合わせ時間のことは、もう、口にしなかったから。
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