やばい、可愛すぎ。


それから、何日と、何か月と───一年が過ぎ去って。


それでも、皐月くんのお母さんの記憶が戻ることはなかったのだという。


そのころからか、皐月くんの様子は変わって行ってしまった。

会いたくない、と言い始めたのだと。



きっと───もう、お母さんは名前を呼んでくれない、

見向きもしてくれない───だから。


だから、もう会いたくないのだと。



そして───皐月くんと八千代さんの唯一の糸は途絶えてしまった。




それから、皐月くんの口からお母さんという言葉が出ることは、一度もなかったのだと。



そして、そう。


その御影八千代さんというのが───あの帰り道に、ぶつかってしまった綺麗な女性なんだと、ようやく私は理解した。



だから、皐月くんはあんなに苦しそうに、あんなに泣きそうに、それでも泣けないまま、誰にも言えないまま───逃げ出してしまった。

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