セカンドデビュー【完】
「死体を捨てたのは松本なんだ。父さんが嘘をついていなければね」


「……僕の母さんは、美香さんの後を追おうとしたんだ。川に入ろうとした。町田の家には帰れなかったんだと思う。……母さんは、君にも言えなかった。都内に入ったところで、行き場がなかったんだ」

そして自殺を図った。

「でも怖くなったんだよきっと」
「……」
「あるいは……。君に謝ろうとして、都内に向かったのかも」

夫と元のマネージャーに助けを求めた。
おそらく松本は、水原アヤに恋愛感情に近い憧れを抱いていた。
自殺だけは止めたかったんだろう。

死体と車を同時に処分するのは危険だったはずだ。
どこかで美香の死体を川に投げ捨て、自殺を装った。
そのあとゆっくり車を処分したはずだ。

「水原アヤの性格から、それを一人でしたとは思えない。手分けをして……いや、自殺しようとしたんだから精神的に不安定になっていたはずだ」
「カガさん、奥多摩駅で水原アヤは目撃されています」
「そうだな。彼女は自分で運転をしてここまで来た。水原一雄か松本にもう一台を運転させて、帰宅したと見ていいだろう」



「アヤさんの車は、この奥多摩湖周辺にあると見ていいでしょう」
 
彼女が殺した証拠を、今度こそ見つけなくてはならない。
水原一雄は逃げ出した。
松本は何も語らない。

このままでは終われない。

「鏡原さん。犯人を捕まえたら、どのくらいの刑になりますか」
「……アヤさんはもう亡くなっているんだぞ」
「せいぜい死体遺棄ですか」
「死体遺棄ならせいぜい2、3年だろうな」

不満げな顔をしてしまったのを、鏡原に気づかれる。

「倖太、妙なことはするなよ」
「まさか。オレが復讐なんてすると思いますか?」

そんなことはしない。
殺してもなんにもならない。

この事件を終わらせて、前を向きたい。



……歌いたい。



「忘れそうなんです。母の声も、自分の歌ってる声も」
「……倖太」
「ガラスの靴は必ず見つけます。帰りましょう」
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