妖勾伝
立ち上がると同時に、目の前に現る人の影。

レンは瞬時に太刀に手を添え、その黒目がちの瞳を闇に細めた。









「神月ーー」


「アヤを、
一人屋敷に置いておくには心配か……」



浮かび上がる、気配無きその姿。

神月は両の眼を伏せ、フッと鼻を一つ鳴らした。




面長な顔。

印象的な口元から、見て取れない笑みが零れる。


ーーーやはり、
以前、何処かで会った事があったんだろうか…





その場で対峙したまま、神月の緩み笑む表情をレンは睨み見た。







静寂な沈黙。






その、
二人の間に静かに流れゆく沈黙を破ったのは、レンだった。





「…何故、
わちの事を『満ち月厭う牙持つ獣』だと?」




湧く疑問。


レンの力の事を知っているのは、アヤしかいないハズ。

先程口にした言葉は真実以外の何物でもなく、その意味を知る神月はレンが求め続けていた答えを、手にしているように思えた。



その片眼を見据える。














「本当に、
俺のことは忘れてしまったのか…?」



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