妖勾伝
「あの、
糞坊主め……」




いくら苦々しく躰に溜まる反吐と暴言を吐き散らしても、五百年も鬱積した怒りは治まらない。



神月が閉じこめられていた真の闇は、眩しいほどにその眼を焼いたのだろう。

外にも広がる光の世界に、神月の苛立ちは募るばかりだった。






新緑が青々と手を伸ばし、生の喜びを告げる季節。

幾重にも重なり、多彩な影を地面に落とす。



ーーー再びこの世が闇に色を変えれば、
さぞ、愉快しいだろうな…



五百年前、この地に焼き付けた景色。

それだけが、神月の悦び。



慣れない目線を上にあげ、木々の間から差し込む光を睨み見た。








ーーーそれにしても、どうやって俺はあの念珠岩から出たんだ…






ふと、
よぎる疑問に頭を捻る。

神月の力を持ってしてでも、あの印は解けなかった。




念珠岩の中。

急に目の前が眩んで、光に焼き尽くされる瞬間、躰が弾け飛んだ感覚。

そして、
気付けば、こうして外に出ていたのだった。





自身の掌をまじましと見つめ、外に出た事実を噛み締める。

閉じこめられていた時とは違い、動かせば思い通りに動く四肢が、滑稽さを煽った。



どうやって外に出れたかなんて、神月にとってはどうでもいい事。






そう、

念珠岩の外に出れる事さえ出来ればーーー


蒼く抜ける空を見上げ、神月はニタリと顔を歪めた。









「五百年ぶりに、
外に出れた気分は、
どう?」


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