異世界で家庭菜園やってみた
子爵領からやや疲れた顔で帰って来たウリエルは、表門の前でちょうど一緒になったアルバートと、邸に入ることなく話をしていた。

市場に新しい種を買い付けに行ったアルバートは、そこで声高に話す男たちの話を聞いたのだと言う。

「ここに面接に来た男も混じっていたんですよ!」

悦に入って、昼間から酒を煽る男たちに掴みかかりたい気持ちをぐっと抑え、アルバートはここまで戻って来たのだが、未だ憤懣やる方ないという感じで、冷静な彼には珍しく、興奮した様子でウリエルに報告している。

「野菜が自給自足になったら、市場で一手に野菜を売っている特権みたいなものがなくなるから、子爵領の菜園の野菜を抜いたんだって。まるで英雄譚みたいに!」

顎に手を当て、じっと考え込んでいたウリエルは、つと顔を上げると、「それも、あり得ないことではなかったな」と静かな声で言った。

「ウリエルさん!?何で?」

「興奮するな。そこまで、考えの至らなかった俺たちにも、落ち度があるんだ」

「ええ?」

「野菜を自国で作ることが出来るようになれば、需要が減るのではないか。それは、小売業の者なら考えて当然の事だろう?事はそんなに簡単なことではないけれど、単純に考えたら、そう思う者が出て来ても、おかしくはなかったんだ」

「……」

ウリエルと怒りを共有したかったアルバートにとっては、このウリエルの反応はやや不満なものだったが、年長の、それも外務部で歴としたキャリアのある彼の言葉には頷くしかなかった。

「もう一度、練り直す必要があるな」

そう言って、邸に入ろうとするウリエルに、アルバートが言った。

「ウリエルさん。ユーリには何て?」

「全て、包み隠さず」

「でも、今のユーリにはショックでしょう?そんなふうに思っている奴もいるって知ったら」

「……あの子は、それ程弱くないさ。自分がそう思い込んでいるだけで。俺たちが思っている以上に、強い心を、あの子は持っている。俺たちに出来るのは、あの子が揺らがないように支えてあげることだけだ。あの子の経験が足りない部分を、俺たちは支えてやるんだ」

「……はい」

頷くアルバートに、ウリエルは儚い笑みを見せた。

「……それしか、俺たちには……俺には、してやれることがないんだよ」

ウリエルの思いに、アルバートは言葉を失った。

そんなアルバートに、ウリエルは穏やかに「行こう」と言って、先に邸へと入って行った。

アルバートは、その手に握っていた、新しい種の入った袋を見つめた。

「今度は絶対、誰も悲しい思いをしてほしくないよ……」

けれど、そんな経験を経て、人は前へ進んで行くのだという事も、アルバートは知っている。

彼もまた、両親の死という悲しみを過ぎて、ここにいるのだから。

それぞれの思いが交錯し、前へ進む力となって行く。

それは一人では成しえないことだということを、誰もが感じ、信じようとしていた。



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