異世界で家庭菜園やってみた
菜園をやり直すために選んだ場所は、アルバートとサラの故郷だった。

そう提案してくれたのは、アルバート自身で、やむを得ない理由で故郷を出たものの、もしそこが野菜の産地になるなら、自分も嬉しいと言ってくれた。

サラの方は、あまりいい思い出はないと突っぱねたけれど、彼女自身は、しばらくコウメさまの邸で晩学に励めばいいと、故郷への同行は免除となった。

「しっかり勉強しろよ」

「兄さんの方こそ、勉強すべきじゃないさ」

「僕は、いろんなことが軌道に乗れば、また考えるさ。だから、お前だけになっても、しっかり自活出来るように、頑張るんだぞ」

兄妹の言い合いは何日間か続いていたけれど、サラの勉学への思いは存外強かったようで、彼女が女学校を卒業するまでは王都に留まることになったのだ。

「サラちゃんの事は、わたくしにお任せなさい。若い人の道筋を付けてあげるのも、年老いたものの役目ですよ」

大らかなコウメさまの側にいれば、サラの少しささくれ立った気持ちも落ち着くかもしれない。

そんな期待が、兄であるアルバートにはあったのかも知れなかった。

悠里、ウリエル、アルバートの三人でやって来た、アルバートの故郷トーサ村は、思った以上に痩せている土地で、がちがちの土は、耕すのさえ、容易ではなさそうだった。

だが、この国の痩せた土地も、土壌改良をすれば野菜が出来るようになることは、コウメさまの菜園で証明済みだ。

悠里は少ない知識を総動員して、まず近くの山の中から腐葉土を持ってくることから始めた。

山に木々が豊富なのは、神殿周辺の山と同じで、腐葉土には困らない。

王都の仕事との往復になるウリエルには、あまり頼めず、もっぱらアルバートと二人の作業。

体力のない悠里には、なかなかの重労働だった。

山から菜園まで土を持って行くのはアルバートが担ってくれ、悠里は荷台に土を乗せる役。

軽い腐葉土だから出来る作業だけど、それでも、30分程したら根を上げてしまった。

「一度には無理だよ。少しずつ、やって行こう」

アルバートに差し出された水を受け取りながら頷いた。けれど、こんなペースでは、いつになったら種を蒔くことが出来るか……。

腐葉土を削っては、荷台に乗せ、菜園まで運ぶ。

そして、残った時間で、腐葉土と元の土を混ぜるように耕す。

一日で耕せる範囲は限られていて、四日経って、ようやく普通に畑が出来るくらいの広さにすることは出来た。

「こっからだな」

アルバートは少し日焼けした顔を綻ばせた。眼鏡の奥の瞳が、優しく細められている。

「うん。ほんとに、こっからだね」

土を触ってみれば、まだまだポロポロと零れるような土で、とても栄養があるようには思えない。

「これで、出来るのかなあ。野菜」

けれど、一度植えてみなければ始まらない。

肥料を加えながら、様子を見るしかないのだ。

今年は収穫は期待出来ないだろうけど、二年、三年経つうちに、きっと出来るようになるだろう。

(その時、わたしは、この世界にいるんだろうか……)

土を触りながら、悠里はふと考えてしまった。

この菜園が緑でいっぱいになる時、自分はその様子を見、この世界の人と喜びを分かち合うことが出来るのか。

(わたしは……)

本当に、どうしたいんだろう。

「ユーリ。大丈夫?疲れた?」

「ううん、平気。土を少しならしてから、種を蒔くから」

「週末には、ウリエルさんが来るから、一緒に蒔けるといいね」

「うん。そうだね」

ウリエルが、来る。

二週間ぶりのことだった。

彼との間には随分距離が出来てしまっていたけれど、それでも、こうして気に掛けて、忙しい中わざわざ来てくれることが嬉しかった。

自分から作った距離であるというのに。

悠里は、ただ嬉しいという気持ちだけを、素直に受け止めようとしていた。





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