異世界で家庭菜園やってみた
幼い子供のまま大人になってしまったようなこの人を、どうしたらいいだろう。

悠里が考えあぐねていた時、ふっとアシュラムの体が離れた。

潤んだ瞳が、悠里を見つめる。

「こうしていても、なお、あなたは私のことを思ってはくれないのですね?」

「……アシュラムさん、わたしは……」

「いいえ。もう、いいのです。いくら求めても、応えてくれないのなら」

「アシュラムさん!話を聞いて」

悠里は離れて行こうとするアシュラムの袖を掴もうとして、躓(つまづ)き転んでしまった。

膝が痛むのも構わず地面に手を着いて目で追うと、アシュラムが振り向いていた。

「もっと話そうよ。アシュラムさん」

「……何を?」

「アシュラムさんの事も、わたしの事も、これからどうしたいかとか。いろいろ。いっぱい話そうよ」

「話して、どうかなるとでも?」

「だって。話さなきゃ、分かり合えない事、いっぱいあるよ。求めるだけじゃだめなんだ。意地になって、殻に閉じこもってちゃ、だめなんだよ。自分から飛び込まなきゃ、受け入れて貰えない。そう言うこと、いっぱいあると思う。わたしも、アシュラムさんも」

その時、悠里とアシュラム以外の声が、夜の闇の中に響いた。

ユーリを呼びながら、こちらに向かって来るのは、アルバートの声で。

さっとアシュラムが身を翻す。

「アシュラムさん!!」

アシュラムの体が、月光色の光に包まれた。

もう一度、彼のローブを掴もうとして伸ばした手。

宙を掴むかと思われたそれは、思わぬ強い力で握られ、引き寄せられた。

月光を纏ったまま、顔を寄せ、アシュラムが言う。

「このまま、私と行きますか?」

「行けない。行けないけど、アシュラムさんにも行ってほしくない」

すると彼は、痛いほど儚い笑みを浮かべ、「私は、私だけのあなたが欲しいんだ」

そう言って、悠里の手を離した。

土の上にどさっと落ちた悠里を一瞥すると、そのまま月光色の光の中に消えて行く。

追い縋るように伸ばした手は、もう握り返されることはなく、月光のかけらを一つ、掴んだだけだった。

「あ……」

悠里はがくっと地面に手を着いて、しばらく呆然としていたが、そんな彼女を見つけたアルバートが駆け寄った。

「ユーリ!何があったんだ!?」

肩を持って揺さぶると、ようやく悠里の目の焦点が合い、アルバートを見た。

「アル……」

「お前、どうしたんだよ?何があった!?」

「わたし……どうしよう。怒らせちゃったかな……」

「何言ってんだよ。誰が怒ったの?誰かここにいたのか?」

「アル……わたし、間違えちゃった?アシュラムさんと一緒に行った方が良かったのかなあ」

「とにかく立って。中に入って落ち着こうよ」

アルバートに支えられて立ち上がろうとしたけれど、腰が抜けてしまったように力が入らない。

「どうしちゃったんだよ。ユーリ」

困惑するアルバートを横目に、悠里はアシュラムに対し、もっと違った対応があったのかも知れないと後悔し始めていた。





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