異世界で家庭菜園やってみた
「一緒に、畑を、やる?」

 困惑も顕わなアシュラムは、あらぬ方に視線をやって悠里の言葉の意味を考えているようだった。

「はい。トーサ村に行って、わたしと……わたしたちと、野菜を作りましょう」

 アシュラムが悠里を元の世界に戻そうとするのも孤独ゆえというなら、彼が孤独を感じないようにしてあげればいい。

 悠里の思考は単純で分かりやすい。

 けれどアシュラムは彼女が思う以上に複雑にできていた。

 アシュラムが悠里に視線を戻した。

 そのまなざしに悠里は息を飲む。

 そこには彼女が想像する以上に冷たい光が宿っていたからだ。

 そして、アシュラムが発した声も身を引きたくなるほどに冷めたものだった。

「私があなたのお仲間と共に畑をして何の益があるというのですか。仲良しこよしで収穫の喜びを分かち合う。それはそれで楽しいでしょうね。けれど私が本当に欲しいものは結局手に入れられない。私だけのあなたは」

「……」

「ここで、二人で過ごして下さると言うなら、もちろん否やはありません。この神殿をあなたと私の城にするべく努力いたしましょう。禁呪も封印しますよ」

 そう言ってアシュラムは花が綻ぶように笑った。

 普通なら見惚れてしまうであろうその笑顔も、今はただ怖ろしいものでしかなく、悠里は寒気を感じて身震いした。

 この人はどこまでも独善的で、悲しい人だ。

 その気質が彼の生い立ちに因るものであるなら、その罪はこの国の人すべてにある。

 彼を人気(ひとけ)のない神殿に押し込み、多感な時期を孤独の中に押し込めてきた。

それに気づきながら手を差し伸べようともせずに。

 魔法の力を守るため?

 そんなもの、くそっくらえだ!

「四の五の言わないで、一緒に行くんですよ!」

 声を張り上げ言えば、アシュラムは鳩が豆鉄砲を食らったような顔で目をぱちくりさせた。

そんな彼にかまわず、悠里は彼の手をぐいぐい引いて広間の入り口へと引っ張って行った。

「こんな殺風景な所にいるからだめなんですよ。人間、もっと健康的に行かなくちゃ。お日さまの光を浴びて、土の匂いをかいで、自然の綺麗なものを見て。いろんなことを一緒に楽しみましょうよ。アシュラムさんはすっごいイケメンさんで立派な大人の人なんですから、もっと自分の意志で生きるべきです。誰が何と言おうと、その権利はアシュラムさんにあるんです」

 広間を出たところで、悠里は立ち止まり後ろを振り返った。

「わたしが守りますから」

「……」

「誰かが文句言ってきたら、わたしがアシュラムさんを守りますから。だから、ここから出ましょう」

 返事を待たずに前を向いた悠里は、またアシュラムの手を引いて歩き出した。

 もう自分を取り戻しているはずのアシュラムは、しかし反論することなく悠里について行く。

 その薄青色の美しい瞳に涙が溢れていたことを、悠里は知らない。


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