異世界で家庭菜園やってみた
 神殿の外へ出てみれば、春の日差しが燦々と降り注いでいた。

 日本のそれよりはやはり暖かさは劣るものの、その明るさだけで気分が高揚してくる。

 周囲の森も、その爛漫の光に輝いていた。

「わあ、綺麗ですね」

 振り返れば、神殿の城壁もきらきらと反射し、まるでアシュラムの背後に後光が差しているかのようだった。 

(アシュラムさんのほうがもっと綺麗だ)

 悠里は嬉しくなって顔を綻ばせた。

 光のもとにあれば彼の頑なな心も溶けるのではないか。

 そんな期待が膨らんでいく。

「さあ。行きましょう」

 そう言って手を引けば、アシュラムは微笑んだ。

 その目にもう涙はなく、薄青色の瞳がかすかに潤んでいるだけだった。

 一歩一歩神殿を離れて行く。

 これが本当の意味でアシュラムと神殿の決別になればいい。

 悠里はそう願ってやまなかった。

 神殿に続く坂道を半ばまで下ったところで、麓の方に土煙を見た。

 それは次第に悠里たちの方へと近付いて来る。

「あれ、何ですかね」

 隣を見れば、アシュラムの不安そうな顔があった。

 安心させるように握る手に力を込めると、悠里を見て微かに笑った。

 近付くそれは、背の上に人を乗せた馬だった。

 そして、その人は。

「あ、ウリエルさん……」

 しばらく会わないうちにまた精悍さを増したような。

 自然に鼓動が早まるのを悠里はどうすることも出来なかった。

 悠里たちの目の前で馬を止めたウリエルは、さっと飛び降りると駆け寄って来た。

「無事だったのか」

 汗の滲む額をグイッと袖で拭ったウリエルは、悠里とアシュラムが手を繋いでいるのに気付いてむっと眉を寄せた。

「ウリエルさん。どうして、ここに」

「アルに、ユーリが神殿に向かったと聞いたから。……なんで、二人で?」

「アシュラムさん、わたしたちと一緒に畑をしてくれるって言ってくれたから。だから、これからトーサ村に戻ろうと思って」

「アシュラムが?」

 悠里の言葉にウリエルは喜ぶどころか訝しそうにしている。

「神殿はどうする」

 その言葉にアシュラムは目を伏せた。

「いや。神殿などどうでもいい。あんたはユーリを日本に戻そうとしていたんじゃないのか。だから、俺は慌てて馬を走らせてきたんだ」

 それなのに、なぜ、畑を手伝うという話になるのか。

「そ、それはね、ウリエルさん」

 わたしが強引にと悠里が言いかけるのを制して、アシュラムが前に出た。

「やはり私はユーリの傍にいたいと、そう思っただけです」

 挑むような視線を向けるアシュラムに、ウリエルははっと息を飲んだ。

 アシュラムが「ユーリ」と呼んだことに、己が深い衝撃を受けていることに気付く。

 未だ二人の手は繋がれたまま。

 ウリエルの胸が鈍く軋(きし)んだ。
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