異世界で家庭菜園やってみた
 トーサ村の宿で真夜中に目覚めた悠里は、ものすごい勢いで空腹を満たし、またしっかり眠り元気回復。

 王都に着けば、久々にコウメさまに会えるだろうという気持ちもあって、気分は上々。

 意気揚々と馬車に乗り込んだ。

 前の座席にはウリエル、そして隣にはアシュラム。

 皆一様に黙り込み、窓の外にばかり視線を向けていた。

 トーサ村の畑はアルバートがいてくれるから心配ない。

 彼は快く悠里を王都へと送り出してくれた。

「野菜の種、もう少し買ってきて」という言葉と共に。

 窓の外には荒涼とした大地。

 きっと日本は緑が溢れているだろうに。

 悠里は少し故郷のことを懐かしく思い、小さな溜め息をついた。





 王宮はアシュラムの突然の訪問に騒然となった。

 神殿から姿を消したという報告はすでに知れ渡っているのだろう。

 遠巻きに見る者、直接声を掛けようとする者。

 それらに鋭い一瞥をくれ、アシュラムは堂々と回廊を歩いて行く。

(皆、私の力を恐れている……)

 そのことに胸を痛めながら、しかしそのような気持ちは表に出さず、アシュラムは謁見の間を目指した。

 悠里はびくびくと、ウリエルは異様な雰囲気の王宮に眉をひそめながら、アシュラムの後に続いていた。

「アシュラムさま。殿下!」

 悲鳴のような声に呼ばれそちらを向けば、彼付きの侍女頭ヨハンナがこちらに向かって来ている。

「ご無事でしたか……。あなたが殿下を?」

 ヨハンナは鋭い目を悠里に向けた。

「あ、あの……」

 この世界で唯一とも言える苦手な相手をいきなり前にして、悠里はしどろもどろで俯いた。

「ヨハンナ。これはすべて私の意志だ。陛下に謁見を申し出る。支度してくれ」

「で、ですが、陛下は大層お怒りです」

「だからだ。ユーリ、しばらくウリエルと待っていて」

 悠里にはとろけるような笑みを向けて、アシュラムは踵を返した。

「あ、アシュラムさん。待ってるからね~」

 ヨハンナは悠里をひと睨みすると、ドレスの裾を翻してアシュラムのあとを追って行った。






「アシュラムさん、遅いね」

 四半刻ほど待ったが、彼はまだ戻って来ない。

 ウリエルと手近にあったベンチに腰掛け待っていた。

 彼との間には、変わらず気まずい空気が流れている。

 アシュラムよりもウリエルと話す方がためらわれるなんて。

 そんなこと初めてだった。

 会話のないまま時が経ち、わさっという衣擦れの音がして顔を上げた。

「え?ええ~~!」

 のけぞるほどに驚いた。

 ウリエルも言葉なく目を見張っている。

「ア、アシュラムさん、どうして……」

 ついさっきまでアシュラムの背を覆っていた美しい白銀の髪。

 それが今はばっさり耳の辺りまで切り揃えられている。

 後ろに控えるヨハンナに目をやれば、ハンカチで顔を覆いしくしくと泣き濡れているようだった。

「すっきりしたでしょう?」

 本人だけが爽やかに笑っている。

 神官の長いローブも脱ぎ捨て、貴族の正装を身に着けたアシュラムは、輝くばかりの王子ぶりだった。

「さあ、参りましょう。謁見の間へ」

 すっと悠里へと差し出された彼の細く長い指。

 悠里は呆然と彼を見つめながら、無意識のうちに手を重ねた。

 くすりと笑って、悠里をエスコートするアシュラムを、ウリエルは複雑な表情で見ていた。




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