ケータイ小説『ハルシオンのいらない日常』 著:ヨウ
何のヘンテツもない、店の名前が印刷さ れた紙袋に商品を入れても、その客はお 金を出そうとしなかった。
「あの……?」
戸惑いがちに相手の顔を見ると、目が 合った。なぜか、こちらをじぃっと見つ めている。
「すいません、980円になります」
聞こえなかったのかと思い、もう一度金 額を言い直したが、男性はお金を払って くれない。それどころか、私から目をそ らさず、
「雨宮夜空?」
と、私のフルネームを口にした。
胸元に付けている《あまみや》というプ ラスチック製の名札を意識しながら、私 はうなずく。
「はい、そうですけど……」
「やっぱり! 雰囲気変わったな! 一 瞬、わかんなかったし!」
嬉しそうに声を高鳴らせる彼に、私は首 をかしげるしかなかった。