【完】そろり、そろり、恋、そろり
私の言葉を聞いた後、彼は少しだけ口角を上げて、ふっと笑った。少しホッとして、つられて微笑んだ私の唇と彼の唇はどちらからともなく重なった。


それからしばらく、キスを交わしていた。そっと触れるだけのキスを。拓斗君は私の頬に掌を添えて、何かを確認するかのようにずっと触れながら、唇だけじゃなく、瞼に頬に額にとキスを落としていく。


時々私からも触れながら、彼の行動を受け入れ続けた。もうさっきまでの今にもいなくなりそうな拓斗君は消えていて、安心してきたら、今度は私の方が泣きそうになってしまった。


そんな私の様子に気がついたのか、拓斗君はハッとした顔をして、急に身体を起こした。そして、その拓斗君に引っ張られるようにして私も身体を起こした。彼に跨るように、向かい合って座った。


「……」

「……」


無言のまま目が合った瞬間、私からキスをしてぎゅっとしがみついた。よかった。よかった。いつもの拓斗君に、私が知っている拓斗君に少し近づいた。


俯くように彼の首筋に顔を埋めて、彼の体温を感じていたら、拓斗君は片腕で抱きしめ返してくれて、もう片方の手で頭をそっと撫でてくれた。

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