だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版





「時雨?」




固まっている優希が何か言いたげだったのに、それとは別の声が背中から響いた。

きっと周りにはそれとはわからない、不機嫌さを含んだ低い声。



声に滲む感情が、少しだけ怖い。



振り向いて愕然とした。

湊が女の人を支えている。

さっきお手洗いで会った、あの女の人。




「何、してるの?こんなところで」




剥き出した感情をぶつけてはこないけれど、その声も目線も私を咎めるものだった。




「優希と新年会」


「なんでこんなところで、って聞いてるの。もっと違うところでもいいでしょ?」




何がそんなに気に入らないのか、それとも自分が利用している場所だから気に入らないのか。

湊の怒りの矛先がさっぱりわからなかった。


湊の目を見ることも、何より湊が女の人を支えている様子を見ることもの嫌で、私は下を向いてしまった。




「こんばんは、湊さん」


「こんばんは、優希ちゃん」




よそゆきの声に一気に変化する。

それにさえ、苛立ちが募ってしまう。




「私がここに連れて来たんです。二十歳になったし、こういうところも来てみたくって。いけませんでしたか?」


「あぁ、そうだったの。ごめんね、つい厳しく言っちゃって。誤解させちゃったかな?」


「いえ。全然」




< 112 / 358 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop