だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「時雨?」
固まっている優希が何か言いたげだったのに、それとは別の声が背中から響いた。
きっと周りにはそれとはわからない、不機嫌さを含んだ低い声。
声に滲む感情が、少しだけ怖い。
振り向いて愕然とした。
湊が女の人を支えている。
さっきお手洗いで会った、あの女の人。
「何、してるの?こんなところで」
剥き出した感情をぶつけてはこないけれど、その声も目線も私を咎めるものだった。
「優希と新年会」
「なんでこんなところで、って聞いてるの。もっと違うところでもいいでしょ?」
何がそんなに気に入らないのか、それとも自分が利用している場所だから気に入らないのか。
湊の怒りの矛先がさっぱりわからなかった。
湊の目を見ることも、何より湊が女の人を支えている様子を見ることもの嫌で、私は下を向いてしまった。
「こんばんは、湊さん」
「こんばんは、優希ちゃん」
よそゆきの声に一気に変化する。
それにさえ、苛立ちが募ってしまう。
「私がここに連れて来たんです。二十歳になったし、こういうところも来てみたくって。いけませんでしたか?」
「あぁ、そうだったの。ごめんね、つい厳しく言っちゃって。誤解させちゃったかな?」
「いえ。全然」