だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「湊さん、その方をどこかに連れて行く途中だったんじゃないですか?」
「あぁ、少し外の空気に当たりたいからって。飲みすぎたみたいだからね」
「そうですか。じゃあ早く行ってあげた方がいいですよ。お姉さん、顔真っ赤だし」
そうだね、と言って湊はその人を出口の方へ連れて行った。
女の人は私たちともっと話がしたいのか駄々をこねたけれど、湊は強引に連れて行ってしまった。
いつも私を抱き締めるその手が、違う女の人を支えていることに非道く胸が痛んだ。
苦しくて、息の仕方を忘れてしまいそうなほどに。
「時雨、大丈夫だよ。湊さんはただの付き添いだし」
「わかってるよ。でも、それでも苦しい」
湊じゃなきゃいけない理由はない。
湊がする必要なんてない。
あの女の人は湊のことが好きなのに。
どうして、誰にでも優しいの?
その優しさは、私だけに向けて欲しいのに。
「信じてる、なんて口で言えても心は想ってないのかも。不安だよ、いつだって」
ぽろりと出た言葉は、きっと心の奥底にあった本音。
込み上げてきた気持ちだった。
「そういうのって、あって当然じゃないの?」
優希はにこにこと笑いながら、そう言った。
私の方を向かずに、カウンターの前の綺麗な瓶を眺めながら。