だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「もう一度、ちゃんと振って。最後にするから」
決意の滲んだ声。
後ろ向きな声ではなく、前を見据えた声。
さっきまで取り乱していたのに。
「山本さん。貴女はいつまでそうしているつもり?」
突然名前を呼ばれてびくりとする。
もう此処にいるわけにはいかないと覚悟を決めて、静かに立ち上がった。
窓に映って見えた圭都と杉本さん。
圭都の胸に寄り添ったまま、入り口のドアにもたれかかっていた。
背中に回されている圭都の手を、息苦しい気持ちで見つめていた。
振り返って、二人を見つめる。
何も考えられない頭で。
「私は、あなたよりも圭都を大切に出来るわ。あなたには何が出来るの?」
見つめられた目の中に、やっぱり嫉妬が滲んでいる。
けれど、その中に小さな諦めを見た気がした。
振り切るための決意を。
彼女に返せる言葉は本当に少ない。
私が出来ること。
それは、彼女に出来ることではいけないのだと想う。
今の私の気持ちを。
まとまらないこの想いを。
彼女を目の前にして、伝えることに躊躇った。
けれど。
無意識のままに、簡単に言葉は出てきてしまった。