first Valentine
フミが巾着袋を提げ、買ってきた花を抱えて外に出ると、いつの間に降ったのか、うっすらと白い雪が一面を覆っていた。

「寒いはずね」
フミは小さく呟くと、通い慣れた道を歩き始めた。

寒いのは嫌いじゃない。
巾着の中のチョコレートにも寒いくらいのほうがちょうどいいだろう。

そう思うと、足元を覆う雪さえも愛おしく感じる。


和夫が祀られている墓は、そう遠くはない。
年老いたフミの足でも半時も歩けばたどり着ける。
だからこそ、彼女は老いてからもあの家から離れようとは思わなかった。

昔から、事あるごとにフミは和夫の墓に赴き、一人彼に語りかけていた。


何十年と通い慣れた道。

だが、過去こんなに胸をときめかせて、この道を歩いたことはなかった。
 
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