first Valentine
うっすらと雪の残る中、静かな時間が流れていく。

墓に向けて差し出されたチョコレートを乗せた半紙だけが、時折風に揺れてカサっと音を立てる。


フッと微笑んだフミは差し出した手を身元に引き寄せると、
「私も一つ、一緒にいただいていいかしら」
と問いかけ、片手でチョコレートをひとつ摘む。

口の中に含めば、たちまちそれは四角い輪郭を失い、再び甘い香りが口内いっぱいに広がっていく。

フミは瞳を閉じて、目の前に眠る夫に話しかける。

「甘くて、おいしい。
 和夫さんはいかがですか」


蒼く透明に澄んだ空からは太陽の光が優しく降り注ぎ、そっと彼女を包みこんでいる。

そっと瞳を開ければ、溶けかけた雪だまりに反射した光がキラキラと輝いて見えた。


「美しい国ですわ」
フミが呟く。


和夫さん。
あなたが命を賭して守ろうとした世界は、今もこんなに美しい。
 
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