first Valentine
今なら、私も沙織のように頬を赤らめて、この甘い甘いチョコレート菓子を作っていただろうか。

そんな想いが胸をよぎった時、フミの視界に沙織が置いていった白い買い物袋が目に入る。

「おばあちゃん、自分で買うことないみたいだから、コレも置いていくわ。そのままでも食べれるし……
 私はまた好きなチョコレート買うからいいの」
そう言って、買いすぎたチョコレートを沙織が置いていったのだ。

冷蔵庫には、まだ生クリームも入っている。

チョコが固まるのを待つ間に、否応なく聞かされた生チョコとやらの作り方もわかっている。


フミの心臓が、少女のようにトクントクンと高鳴っていく。


「まさか、私が……?」

自分でも理解しきれない考えに動揺を隠せない様子で、フミは目を泳がせる。

それでも、さまよった視線は、また沙織の残した買い物袋へと戻っていく。
 
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