不器用恋愛
啓吾は女の会話にまるで興味なさそうに、曖昧な返事を返す。段々と不機嫌になる啓吾の様子に彼女が気付いてないなら
すごいな、とただ感心する。
そう、啓吾は美人に話しかけられているというのに不機嫌だ。そのくせ、あたしに向けて、悪戯に瞳を光らせる。
ああ、嫌な予感しかないわ、この馬鹿男。
こいつは自分のこの表情がどれだけ悪魔的な魅力があるかを理解してない。
そして、この後に続く言葉なんて、きっと、最低。
「帰れば?」
啓吾があたしを見つめて抑揚のない声を向ける。口角が上がって、捕食者みたいな目。あたしの答えを面白がってるんだろう。啓吾はそんな男。
腹は立たない。その瞳に映る完全に挑戦的な色をあたしは知ってるから。
「はいはい。じゃあね」
挑戦を受ける気なんてらさらさらない。
啓吾の空気を変える意味をあたしは持たない。
グラスを空けて、ゆっくり席を立った。