溶ける温度 - Rebirth -

「ちょっと実家に呼ばれてね。その足できちゃった」

「そっか、実家って都内だったもんね」


転勤族である兄の都合で今は遠くに住んでいるけれど、彼女は都内では有名な資産家の娘だ。
一般家庭で育った兄との結婚も、許してもらうまでに結構苦労してたっけ。

頂いたケーキに舌鼓をうっていると、春子ちゃんは表情を明るくして、私に話しかける。


「そうそう。明季ちゃんそろそろ結婚するのよね。あ、婚約?だっけ?おめでとう」


なかなか面と向かって伝えるの遅くなっちゃってごめんね、春子ちゃんは申し訳なさそうに眉を下げた。
お礼は何がいいかしら、と続けて楽しそうに話し始める春子ちゃんに、私はなんと言ったらいいか、言葉がすぐに紡げなかった。

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