苦恋症候群
◆ ◆ ◆
「……あれ? ヤス?」
「おー」
階段を上がった先、喫煙ブースにここでは見慣れないはずの人物を見つけ、思わず声を漏らした。
彼も私に気がついて、タバコを口にくわえたまま片手をあげる。
「お疲れさま。どしたの、珍しい」
「お疲れ~。いやあ、外回りでこっちの方まで来るお客さまいたんだけど、ついでに本部に急ぎの書類持ってけって次長に頼まれてさあ」
「あはは、そういうことね」
彼とは、約束通り同期で家に押しかけてから約2週間ぶりの再会だ。
あれからヤスは髪を切ったらしく、こないだ会ったときよりもサッパリしている。
似合うじゃん、とひじでつついて茶化すと、「いやー、祐美にも褒められてさあ」と思いがけなくノロケが飛んできたので、これ以上は突っ込むまいと私は早々に話題を変えた。デレデレしている男の同期なんて、ただうっとうしいだけだ。