苦恋症候群
ちらりと、先ほど三木くんが下りて行った階段へ視線を向ける。



「でも三木くん、こっち来てからもいろいろ苦労してるみたいだよ」

「え?」



私の言葉がよっぽど予想外だったのか、ヤスが驚いたように目を丸くした。

その視線を感じつつも、私はただひたすら階段に目を向けながら続ける。



「仕事できるって先入観ある分、いろいろ任されるだろうし。審査部の人たち、いつも遅くまで残ってるしね」

「ああ、そういや審査部って、加山主任いるよな。あの人三木にうるさそう」

「みたいだねぇ。まあとにかく、表面的にはさらっとこなしてるように見えても、実は内面ではすごく大変な思いしながらやってることもあるんじゃないかな、ってこと」

「……ふぅん」



私の話を聞いて、ヤスが少しだけ溜飲を下げたような表情になった。

それにこっそり安堵したのもつかの間、今度はどこかおもしろがっているような顔でにやりと笑う。
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