苦恋症候群
「ふ~~ん」

「な、なによ」

「いやー? サトって、三木と仲良いんだなーって」

「……そんなこと、ないよ」



そう、これは本心だ。

仲良し、だなんて。そんなふうに思い上がっていたわけでもないけど、実際向こうは私のことを嫌っていたのだ。

だからこれは、私が勝手に……少しだけ、彼のことをかばっただけのこと。

ただ、それだけのこと。



「うんまあ、でもごめん。相手のこともよく知らないのに、軽率な発言だったよな」



壁に寄りかかっていた身体を起こし、あっさりとヤスが言う。



「三木と話す機会あったら、飲みにでも誘っておいて。俺1回、ちゃんと話してみたかったんだよなあ」

「……ん、わかった」



小さく笑みを浮かべて、私は叶えられない約束をした。

そのままヤスとはそこで別れ、事務部のドアへと足を進める。


自分の非をすぐに認めることができるのは、ヤスの尊敬すべきところだ。

仕事上でミスをしても、ヤスは誰のせいにもしない。そしてすぐにきちんと謝罪ができるから、上司や同僚、そして後輩たちからも慕われている。


……だけど、自分のどこが、相手にあれほどの嫌悪を与えているのかわからなくて。

謝罪のしようもないときは、一体どうすれば、いいんだろう。


『嫌いだ』と言われたあの日も、今日も。

彼に逸らされた視線が、やけに胸を痛めつけた。
< 207 / 355 >

この作品をシェア

pagetop