苦恋症候群
本部を出て、片側にネオンが輝く歩道をひとりとぼとぼと歩く。

おなかもすいてるし、以前葉月さんと行ったカフェに寄ろうかとも一瞬考えたけれど、それはやめておいた。店員相手とはいえ、なんとなく、誰かと会話をするのが億劫だったのだ。

幸い、駅にほど近くて専門学校などもあるこのあたりは、それなりに人通りもある。部長たちの心配はありがたいけれど、そんなに気を張ることもないだろう。



「……はあ」



スマホで時刻を確認してからそれをバッグにしまうと、自然に、ため息がもれた。

山岸部長と寺沢課長、なにも三木くんにあんなこと頼まなくても……まあ、あのふたりは私たちの間にある微妙な空気なんて知らないから、仕方ないんだけど。

三木くんも……いくら私のことが嫌いだからって、あんな露骨に避けなくてもいいのに。



「……ッ、」



どうしよう、泣きそうだ。いい歳して、情けない。

じわりとにじんだ雫を、手の甲でちょっと乱暴に拭う。
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