苦恋症候群
日付が変わったばかりの冬空は、空気が澄んでいて月の輪郭もくっきりしていた。

あまり都会でもないここは、今日みたいに晴れている日は星も綺麗に見える。自分が吐いた白い息を追うように、闇色の空を見上げながら歩いていると。



「……葉月は」



不意にヤマくんの声が耳に届き、そちらに顔を向けた。

彼はさっきまでのあたしと同じように、空を見上げている。

月明かりが反射して、ヤマくんの銀色のメガネのフレームがキラリと光った。



「葉月は、いっつもガマンする。仕事でミスして落ち込んだときも、三木にひどい言葉かけられたあのときも……自分のこと、責めるばっかりだし」

「……ヤマくん」

「おまえは自分のこと、もっとかわいがってやるべきだ。もっと、労わってやればいい。……葉月は、がんばったよ。俺は、それを知ってる」

「……ッ、」

「だから、強がって笑うな。こんなときくらい、泣け」



……ああ、もう。

もう、なんなんだろうな、この人は。


ヤマくんは、普段から口数が少ない。少ないからこそ、その発せられた言葉ひとつひとつに、重みがある。

あたしはぎゅっと、バッグを握る手に力を込めた。
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