苦恋症候群
「……真柴課長!」
総会が終わって懇親会が開始するまでの、少しの隙間。
男性職員はスーツ、女性職員は思い思いの私服を着て、懇親会の会場であるホールが開放されるのをホテルの広いロビーで待っている。
その短い時間にホールの入り口近くの長椅子に腰かけている真柴課長の姿を見つけ、思わず駆け寄った。
「ああ、森下か。ご苦労さま」
「お疲れさまです。ってあ、すみません私、もう『課長』じゃないのに」
昇進した上司に以前までの役職をつけて呼ぶなんて、社会人としてかなり失礼だ。
あわてて詫びる私に、目の前の人物は先ほどまで眺めていた総会資料を閉じながら前屈みだった身体を起こした。
「別に、そんな気にすんな。俺だってまだ慣れてないんだから」
「……ありがとうございます、真柴支店長」
「あー、やっぱり森下に言われるのも変な感じだなあ」
そう言って笑ったその表情にときめいて、きゅうっと胸がしめつけられる。
私はぐっと身体の横のこぶしを握りしめ、まっすぐその顔を見つめた。
「お話ししたいことが、あります」
「………」
「手短に、済ませますので……少しお時間、よろしいですか」
真剣な表情の私を、彼は無言のままじっと下から見上げていた。
けれどふっと口元を緩め、うなずく。
「いいよ。……場所、変えようか」
総会が終わって懇親会が開始するまでの、少しの隙間。
男性職員はスーツ、女性職員は思い思いの私服を着て、懇親会の会場であるホールが開放されるのをホテルの広いロビーで待っている。
その短い時間にホールの入り口近くの長椅子に腰かけている真柴課長の姿を見つけ、思わず駆け寄った。
「ああ、森下か。ご苦労さま」
「お疲れさまです。ってあ、すみません私、もう『課長』じゃないのに」
昇進した上司に以前までの役職をつけて呼ぶなんて、社会人としてかなり失礼だ。
あわてて詫びる私に、目の前の人物は先ほどまで眺めていた総会資料を閉じながら前屈みだった身体を起こした。
「別に、そんな気にすんな。俺だってまだ慣れてないんだから」
「……ありがとうございます、真柴支店長」
「あー、やっぱり森下に言われるのも変な感じだなあ」
そう言って笑ったその表情にときめいて、きゅうっと胸がしめつけられる。
私はぐっと身体の横のこぶしを握りしめ、まっすぐその顔を見つめた。
「お話ししたいことが、あります」
「………」
「手短に、済ませますので……少しお時間、よろしいですか」
真剣な表情の私を、彼は無言のままじっと下から見上げていた。
けれどふっと口元を緩め、うなずく。
「いいよ。……場所、変えようか」