苦恋症候群
懇親会の会場がある階の、さらにひとつ下の階。

人気のないエレベーターホールで、私たちは足を止めた。



「今日は、天気がいいな。月が綺麗だ」



窓から覗く下弦の月を見上げながら、真柴支店長がつぶやく。

スーツ姿の、後ろ姿。

たまらなくなって、私はその広い背中に思いきり抱きついた。



「森下、」

「……もう、終わりにしましょう。真柴支店長」



私の言葉に、目の前の人物が身体を固くしたのがわかる。

覚悟を決めて、また息を吸った。



「ずっと、私のワガママに付き合ってもらっていてすみません。でももう、大丈夫です。これっきりで、もう課長には触れないし……触れて欲しいとも言いません」



呼び名を間違えてしまっていることには、気づいていた。

だけど私はあえて、そのまま。

あの、はじまりのときと同じままで、続ける。
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