苦恋症候群
「戻りましょう、真柴課長。こないだまでの、上司と部下の関係に」



呼吸をするたびだいすきな人のにおいがして、泣きそうになった。

それを我慢して、言い切ると。ふっと、彼が身体から力を抜いたのがわかった。



「……きっと」

「え、」

「きっと、この関係が終わるときは……きみの方から切り出すんだと、なんとなく、思ってた」



思わず、パッと顔を上げる。

ちょっとだけ眉を下げて困ったように笑う課長が、私のことを見下ろしていた。

その表情を見た瞬間、ぶわ、と目元に熱が集まる。



「っ課長、ごめんなさい。ごめ、なさい……っ」

「なんで、森下が謝るんだ。謝らなきゃいけないのは、俺の方だろ」



そう言って私の腕を腰に巻きつけたまま、課長が身体ごと振り返る。

ギリギリで流れずに済んでいる涙を、そっと、大きな手で拭ってくれた。
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