苦恋症候群
「まあ、昨日は俺もかなり森下さんに酒勧めましたから。こっちにも非はあります」

「いやいやいや、三木くんは悪くないよ……」



今回のコレは、一方的に私が悪い。間違いなく。

そういえば、飲食代やタクシー代はどうしたんだろう? 私ちゃんと払った?


疑問に思って口にする前に、また三木くんが問いかけてくる。



「そういえば、体調は悪くないですか?」

「あ、それは全然大丈夫。私めったに二日酔いしないから」

「……さすがですね」

「うんまあ、だてにお酒好き自称してないからねぇ」

「俺若干、今朝起きたとき頭痛してましたよ。シャワー浴びたらさっぱりしましたけど」

「まだまだ修行が足りないなあ。……で、三木くん、これはなに?」



話しながら、だんだんと彼がこちらに近づいてきていたのはわかっていた。

そしてそのまま三木くんはベッドに片膝を乗り上げ、右手を私の後ろにある窓について。今現在、私に覆いかぶさるような状態になっている。


いや、いやいやいや。近い、近いよ。

この至近距離に内心冷や汗をかきながら、一応その意味を訊ねてみる。

やっぱり彼は淡々とした口調で、答えた。



「宿代、払ってもらおうかと」

「え、お、お金とるの?」

「別にそうは言ってません。──ただ、」



そこでなんの前触れもなく、身体を隠していた掛け布団を取り払われた。

びっくりしすぎて、すぐに反応できなくて。私はただ唖然と、彼を見上げる。

そこで今日初めて三木くんが、口角を上げた。
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