Chocolate Fondue
「私もとっさのことで、よく覚えてないし、もういいですから……」
三栗の手前、そう言った香神だったが、唇には感触が今も生々しく残っていた。
キスとも呼べないような、ほんの数秒間の短い触れ合いだったけれど、香神にとっては忘れられない一瞬だった。
「つい……」
三栗が言った。
「え?」
「いや…その…唇にチョコレートがついているなあと思ったら、勝手に体が動いてて……」
香神は黙って聞いていた。
「こう…頭とは別に…自分でも不思議な感覚で……」
三栗はぽつりぽつりと、思い出すように話す。
「ええ……」
そう言ったきり、香神は続ける言葉が見つからなかった。