Chocolate Fondue
三栗の唇に、とけたチョコレートが光っている。
それを見て、香神は小さくうなずいていた。
『そういう意味だったんだ』
頭で理解できたとたんに、口からこぼれ出た言葉だった。
「あの…僕…、なんか…突然すみません……」
三栗が取り乱して、深々と頭を下げた。
「あ、いえ……」
香神は目の前で手を振って見せたが、まだ頭と体がバラバラな気がしていた。
静まり返ったテーブル。
困ったような、ぎこちない空気が流れている。
「あ、ほら、チョコレートとけちゃいますよ。食べましょ」
香神は誰にともなく、言った。
何事も無かったかのように。
香神の一言で、場の空気がふっとやわらいだ。
心の中で安堵のため息をついているのが聞こえる。
そして、誰もそのことにふれないように、別の話題が始まる。